
昔はこんなことなかった。
何の話かって? 草が生えてきたので鎌で刈っていたら、柄がポキっと折れてしまったのだ。鎌や鍬(くわ)や斧(おの)の柄には普通は樫の木を使ったものだ。とにかく樫の木は堅いし腐りにくいし、だから長持ちもする。
少年のころ、よく自宅の裏山に入って真っ直ぐに伸びた手ごろな太さの樫の木で木剣を作り、握る部分には細いロープを巻き宮本武蔵よろしく辺りを駆け巡ったりした。まあ、それはともかく、樫の木を使うときにはコツがある。
親父から教わったことだけど、幹に陽の当たる側を「あて」という。逆に陰になる側を「まみ」という。もし、知らずに「まみ」の側を鍬や鎌の柄に使ったら、日が経つにつれて乾燥し反(そ)ってくるのだ。
思いたって近くの雑木林に入ってみた。 ん? ない! 昔あれほどあった樫の木がないのだ。「なんてよお・・・」と思わずつぶやきながら辺りを探してみた。あるにはあったんだがやせている。まあ、鎌の柄にするんだから細くていい。使えそうなのを2本作った。
第一次産業が衰退してかれこれ40年。ものみな変わってしまった。福島第一原発近くに住み遠くへ避難している住民が、「江戸時代、明治時代に戻ってもいい。原発なんか要らない。家族とふるさとで暮らせればいい」と涙するのをテレビで見た。この国の政治の貧困をあらためて思った。
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