いつの頃からの風習かは知らない。
この季節は雨も少なく、つけた火が燃え広がるような打ってつけの北風が吹く。町内会の回覧板が年明け早々にやってきて、野焼きが行われる日程を知らせてくる。この日は一戸にひとりは参加してくださいとのこと。昔と違って田んぼのすぐ側に民家があるが、不思議なことに風にあおられ燃える火が移って火事になったという話はあまり聞かない。
消防署も総出で周辺から見守ってくれる。戸外で物を燃やさないのが昨今の常識になっていて、煙の立ち昇る光景などついぞ見られないが、この野焼きばかりは例外のようだ。
枯れ草に火をつけるのは簡単だが、簡単でない。風にあおられて、つけた火が逆襲しやけどをする場合がある。だから、持ちやすい太さの生竹を切ってきて、節に穴を開け筒にして、それに灯油を入れてふたをする。片方の出口はタオルを詰めてそこに火をつけると、小さな炎が灯油のなくなるまで1時間ほどは燃えつづける。この「チャッカマン」はなかなか重宝する。
一体、なんのために野や土手を焼くのか? 一般に、野を焼くのは野の森林化を防ぐためという。わが国のような気候では、野は放置すればすぐに森林化するようだ。それを防ぎ、野を野として、土手を土手として維持するための作業なのだ。さらに、春先に出る若草にとって灰が肥やしになるし、野を焼くことで有害虫も消える。遠くから見ると、風に踊って燃える火と煙の様は壮観でさえある。
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